「いろんな人がいろんなことを言います。」

<転記 2009.8.9 レビュー短縮>

本書は、前回の05衆院選の時期に争点になっていた、代表的な5つの経済的テーマを取り上げ、何が問題とされ、誰がどのような主張を行い、どのように議論されたのかをまとめた本であり、ようやく行われる4年ぶりの衆院選を前に、前回の衆院選がいったい何であったのかを振り返り、今度の選挙を考えるための一つの手がかりとして有効かと思い読んでみました。

正直、私は国政にそれほど興味はなく、政策や政治論争を真剣に聞いたり考えたりしたこともなく、ニュースや新聞の見出しで見るくらいの知識しかありませんので、様々な論客の多様な意見をまとめたこのような本は何かと参考になります。

ただし、この本はまさに05の衆院選の時期に書かれた本であり、現在の視点からは幾分異なる点もあるかもしれませんが、大枠としては恐らく現在でもそれほど変わるものではないと思われます。現在の視点でこれらの問題が総括されているのかいないのか、よくわかりませんが、普遍的な内容も含むため、定期的な総括は不可欠だと思います。

本書で取り上げられている内容は、郵政民営化不良債権処理、金融政策、財政再建構造改革といった、当時メディアを賑わせたキーワードであり、今日でも何かと取りざたされるものばかりです。

郵政民営化をするべきかするべきでないか。結果的に民営化されるわけですが、賛成派も反対派もその議論は、結局はそれぞれの権力を保持拡大しようとするパワーゲームの表出とのことのようです。未だに悶着の耐えない問題であり、よくわかりません。

不良債権処理を急ぐべきか、急ぐべきでないか。結局先送りされ、失われた十年という状況を作り出したようですが、金融関係者の様々な事情がそうさせたようです。

金融政策については、ゼロ金利量的緩和が有効なのか否か。主体となるのは当然日銀ですが、日銀の政策とそれへの批判という形で論争されることになります。結局デフレ対策のためにゼロ金利量的緩和が継続されますが、副作用も大きく、その効果は不明でも、やめるに止められない状況とのこと。現在はどうなっていたでしょう?

財政再建については、国債を増やすのか減らすのか。普通に考えれば政府の借金である国債は減らすべきであり、天文学的数字になりつつある日本の負債は財政破綻を招きかねないため借金は減らすべきとなると思いますが、国は借金をしても問題ないという考えがあるのには驚きです。その発想はサブプライムローンのような怪しさを感じずにはいられません。もちろん主流は財政再建のようですが、緊縮財政と積極財政との対立があるようで、これは性格に依存する方策なので、どちらかに決めるのは難しそうです。

構造改革とは何を指すのか。聞こえも良く、曖昧な言葉であるが故に、これほど都合よく使われている言葉もなく、各自が自分の考えを正しいと主張するために使っているだけのようです。誰が何を指して言っているのか注意する必要があるようです。

これらの議論を見ていて思うのは、結局国の政策はどうあるべきかで決まるのではなく、多数の権益者が既得のものを守るため、あるいは奪い取るために様々に画策し、その結果決まった妥協の産物としての政策は中途半端で、その効果の程は誰にもわからない、ということになりそうです。

それが、民主政治というものの本質なのかもしれませんが、そうなると結局は、市民性の向上や国民の意識の成熟といったものが、よりよい政策への唯一の道ということかも知れません。

現在のような、将来世代につけを回すような政策を行っているうちは、いつまでたってもジリ貧の状態が続きそうで、将来への希望を食いつぶしているような気がしてなりません。
しかし、嘆いていても仕方がないので、地道に情報を収集して自分で考えるしかありません。

そのような意味で、本書は日本の政治が置かれた状況を整理する一つの手がかりとなる本だと思います。ただし、状況を知るほどに、どうすればいいかが益々わからなくなるというジレンマに陥る恐れがありますが…

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<一言>
結局本書の内容は、あまり選挙の参考にはなりませんでした。
選挙は民主党が勝ったわけですが、そう大きく変わったようには見えません。
政治を動かす背景にいる勢力の移動があったはずですが、民主主義の中では革命的に変わるということはないのかも知れません。
本書の論点については、様々な変化も見られますが、まだこれからです。
ただ、郵政民営化問題がパワーゲームというのはどうも間違いなさそうです。