「日本の資本主義システムを考える本。」

<転記 2009.9.27 レビュー短縮>

変貌する日本資本主義―市場原理を超えて (ちくま新書)

変貌する日本資本主義―市場原理を超えて (ちくま新書)

本書は1999年に書かれた本であり、当時の日本の社会経済状況を基に書かれているため、その当時の状況をある程度理解しておかないと、内容を適切に捉えることが難しい部分があるかもしれません。しかし本書では、適確な資本主義理解のために、近代の資本主義の成立を振り返る作業を行っているため、現在につながる資本主義のあり方を整理することができ、今読んでも十分有用と思われます。
また、10年前の状況と今日とを比べることで、何が変わり、何が変わっていないのかを考察することから、今後の日本社会のあり方を考える一つのヒントになると考えられます。

本書の書かれた時期は、ちょうど橋本内閣による改革の挫折で参院選に惨敗し、小渕内閣が成立して大きく傾いた日本経済の建て直しを行っていた時期だと思われます。正直この頃ニュースもあまり見ておらず、当時の社会の空気もよく思い出せません。
著者が冒頭部分で批判的に言及している政府の「改革」というのは、恐らく主に橋本内閣においての改革のことだと思いますが、著者は改革云々の前に、そもそも日本の経済システムそのものの理解が誤っていたのではないかという疑問から出発し、日本の経済システムとはどのようなものであり、現在のグローバル経済システムの中でどのように展開すべきかを考えて行きます。

著者の資本主義に関する問い直しは、マルクスの貨幣フェティシズム論から始まり、シュンペーターウェーバーゾンバルトらの言説から、生産の革新と消費の欲望からなる資本主義が自己拡大を続けていくことの危惧を示します。そして現在のアメリカの隆盛はこの拡大の中にあり、それに対して不信を続ける日本経済は、ケインズが示した「確信の危機」という状態に陥っている危険性を指摘します。
よって現在日本が行うべきは、将来への確信を取り戻すことのはずであるのに、今行われている「改革」は確信を打ち砕く結果にしかなっていないと批判します。しかしまた、確信が過信へと変化すれば、それはバブルを生み出す原因となるため、ことは容易ではありません。
さらにモノからカネの資本主義へと変貌した現在において、バブルの拡大は想像を絶するほどの影響力を持ちます。ゾンバルトは巨大化する資本主義の疾走を「調教」する必要性を説いていましたが、現在アメリカが主導するグローバルキャピタルの「調教」など事実上不可能です。実際、その後のリーマンショックに始まる世界的金融危機の後でさえ、ヘッジファンドなどへの規制実現の見込みはほとんどありません。

著者は資本主義のシステムを、私有財産営利企業、競争市場の3つの構成要素にわけ、その各々の関係性から国ごとのシステムの特徴を説明すると共に、資本主義のタイプ分けも行っています。
19世紀はイギリスの所有者資本主義の時代であり、20世紀はアメリカの経営者資本主義の時代であるとし、それぞれ石炭と蒸気機関第一次産業革命、石油と電気重化学工業の第二次産業革命に対応した資本主義形態であることを示し、現在は、情報と金融の第三次産業革命の時期であり、一時期日本とドイツに逆転されたアメリカが、再びその覇権を奪い返した時期にあたるとします。
果たして、21世紀はこのままアメリカの資本主義が拡大していくのか、日本はただそれに追従するしかないのか、このような視点から著者は日本の資本主義システムについて分析します。それは、企業を支える銀行をさらに政府が支えるといういわゆる護送船団方式であり、その監視機能が働かなくなったことがバブルを招く結果となりました。
また雇用システムにおいて、アメリカ、ドイツとの比較から、日本が企業内部労働を調整するタイプであることを明らかにし、その改革が迫られている状況を説明しています。いずれも、その後の小泉構造改革で変革されたものです。

本書により著者が主張するのは、現在のグローバル資本主義においてアメリカは決してグローバルスタンダードなどではなく、そもそもグローバルスタンダードなどというものは存在しないのだから、日本の目指すべきはアメリカへの追従ではなく、日本独自のグローバル資本主義へ対応したシステムの構築であるというものです。むしろ、アメリカ型資本主義は危険でもあり、距離をおく方が良いとさえ言います。

このような日本の課題に対して、著者は必ずしも明快な回答を示すわけではありませんが、その示唆するところは、競争による淘汰とセーフティによる救済の統合と、19世紀に比べてはるかに増加した資産家層へのジェントルマンとしての責任と、さらに非営利企業による市場原理からの離脱ということのようです。重要なのは、資本主義を維持することではなく、社会を維持することであるという言葉は強く共感できます。

本書が書かれてから、日本は著者の意図に反してアメリカ追従的政策により、現在の格差拡大が大きな問題とされる社会へと至っています。バブル崩壊後の失われた十年からさらに十年の時を経ましたが、著者の提言は今でも十分有効と思われます。

本書は、バブル崩壊からの日本の歩みを今一度振り返るよい切っ掛けになると同時に、近代資本主義の構成など有益な知識を得ることができました。
日本の資本主義システムを考えるのに有効な本だと思います。

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<一言>
なんとなく読んだ本ですが、最初の方の近代資本主義の成立を振り返る部分がなかなか面白くて、ついつい読み進めてしまいました。
しかし後半の資本主義の分析の部分はちょっと取っ付き難かったと思います。
あまり詳しくないので、この本の視点がどういう位置づけなのかよくはわかりませんが、どちらかと言えば経営分析という感じなのかもしれません。
あと、99年当時を振り返れたのは良かったです。