「会計の知識は商売のいろは。」

<非掲載 2009.12 >

さおだけ屋はなぜ潰れないのか? 身近な疑問からはじめる会計学 (光文社新書)

さおだけ屋はなぜ潰れないのか? 身近な疑問からはじめる会計学 (光文社新書)

一時期かなりのベストセラーになっていたと思いますが、今更ながら読んでみました。確かに売れるだけのことはあると思います。
会計の概念を分かりやすく噛み砕いて説明し、親しみやすさを感じさせるのに成功しているように思います。私も簿記の本を読んだことがありますが、結局ちゃんと理解できませんでした。本書で簿記が理解できるようになるわけではありませんが、もう一度勉強してみようかという気にはなりました。

内容が薄いとの批判も見られますが、それでもこれだけ売れたのはなぜなのか、『「さおだけ屋ななぜ潰れないのか?」はなぜ売れたのか?』という本があってもいいのかもしれません。たぶん、売れないでしょうが。でも、わかりやすさ第一というコンセプトははっきりしていて、本書から学ぶところも結構あるように思います。

以前テレビでやっていた、一見潰れそうなのに継続している店の儲けのからくり的な番組は、この本からアイデアを持ってきたのでしょうか。ただし、本書はあくまで会計の基本知識を説明するために事例を挙げていますが、テレビの方は儲けの方法に重点が置かれていたのは、視聴者の興味のあり方からして当然なのでしょう。

本書では、会計の基本的要素の中から、利益、連結経営、在庫、機会損失、回転率、キャッシュフローといった概念を、具体的な例を挙げて説明しています。その一つがタイトルでもある「さおだけ屋はなぜ潰れないか?」というエピソードなわけですが、利益の出し方の基本はわかりましたが、結局さおだけ屋の正体は特定事例からの推測のみで、その実体が不明のままのような気がしますが、本当はどうなのか気になります。

こまかい節約よりも、節約は絶対額で行うべきだという考えはその通りだと思いますが、少しでも安く買えた満足感とか、性格上の問題や、節約に対する考え方の違いとか、心理的要素も多分にあると思われ、そう簡単ではない気がします。ただ、節約の問題は、個人や夫婦レベルから国のレベルまで、結構深い問題なのではないかとも思いました。

それと、在庫は悪であり、不要なものはどんどん捨てていくべきとの考えもわかりますが、私のような優柔不断な人間からすると、そのような合理的判断ができるのも一つの才能ではないかと思われます。また、機会損失の話は在庫の累積と裏腹の話でもあり、商売が一筋縄ではいかないということを感じさせます。

あと、住宅ローンの繰り上げ返済はいいことだと思っていたので、必ずしもそれは必要ないというのは新しい発見でした。とは言っても、私には関係ない話ですが。しかし、企業には重要でも家計ではそうでもない、というこの借金の話は、国のレベルではどうなるのか、国の財政の話についてもわかりやすい会計的説明があるといいと思いました。

内容の面白さと共に、著者の性格を反映していると思われるユーモラスな語り口も本書の魅力であり、その上やたら読みやすいと思っていたら、この人小説も書いているとのことで、なるほどと納得した次第です。分かりやすい文章力と構成力は、著者が文系出身であることに関係しているのではないかと思われます。
著者の述べている、会計には数学ではなく数字のセンスが必要であるという話から、優秀なプログラマには文系のセンスが必要という話を思い浮かべました。確か、単なるロジカルな思考だけではなく、全体を捉えて本質を見抜く読解力のようなものだったと思いますが、著者の説明する数字のセンスというのは、まさにそのようなものではないかと思われました。

兎にも角にも、本書は、会計を身近に感じることができ、また、日常においても何かと役立つ知識を得られる、とても読みやすく面白い本であることは間違いありません。

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<一言>
これも『反貧困』と共に未だに掲載されません。
だいぶ短くしたつもりなのですが、まだ長いのでしょうか。
それとも他の理由があるのか、よくわかりません。
本書の売れた原因はやはりタイトルでもある、さおだけ屋のエピソードが斬新だったのだと思われます。
誰もが不思議に思う日常の出来事を、「儲け」というこれまた誰もが食いつく事柄と結びつけてちょっとした謎解き風に見せるその手法は、目の付け所が素晴らしいのではないのでしょうか。
かのテレビ番組との関連性はよくわかりませんが、テレビでも取り上げられるほどのキャッチーな内容なのだと思われます。
しかし、それだけでとも思われず、他にも理由はあるのでしょうが、よくわかりません。