「結構ハードルの高い入門書。」

<転記 2009.12 レビュー短縮>

国際金融入門 (岩波新書)

国際金融入門 (岩波新書)

国際金融とは日常ではあまり意識しないし、ニュースなどで為替レートがどうとか、円高ドル安などという言葉を耳にするくらいですが、グローバル化の進む現在、世界的な金融の動きも国内での身近な生活に大きく影響し、全くの無関心ではいられないと思われます。そこで、多少とも国際金融について知識を得て、ニュースなどで報じられる内容が理解できればと思って読んでみましたが、ちょっと甘い目論見だったようです。

本書を読み始めてすぐに、国際金融云々よりも、まずは金融についての基礎知識がなければ話にならないという、至極当たり前のことに気づきました。為替レートの決定メカニズム以前に、そもそも為替についての知識が全くないので、本書の噛み砕いた説明もなかなか頭に入ってきませんし、概念がよく理解できません。

円売り・ドル買いなど、当たり前に使われている言葉ですが、金融に馴染みのない私などは、そもそもなぜ貨幣の交換を売り買いというのか疑問に思われます。しかし、よく考えると日常の買物も、貨幣と物品の交換を売買と言っているわけで、そうすると貨幣の存在が問題になるのか、単なる交換とは意味合いが異なるのか、などと貨幣経済の根本がよくわかっていないことに気づき、とても国際金融どころではありません。

本書でも、貨幣の交換機能や価値の貯蔵機能など、貨幣の基本から話が始まり、貨幣の貸借である金融から、国を跨いだ金融である国際金融の話へと徐々に話が展開してきます。ただ、そもそも売買とは何であるのか、円売り・ドル買いの謎はひとまず置いておくことになります。また別途、いろいろ調べてみる必要がありそうです。

本書は、制度、理論、歴史の側面から国際金融を説明していますが、制度や理論については当然金融用語や公式のようなものが出てくるため、まるで学校の勉強のようであり興味を持続するのは困難です。外国為替、国際収支、為替レートなどなど基本的ですが、よく理解できていない事項の説明が続きます。しかし、国際収支表の符号と資本の流出入の定義は通常の簿記とは異なるなど、通常の簿記も良く理解できない者には理解困難です。

また、日本が金持ちになるには経常収支が黒字になる必要があるというのは、なんとなく意味がわかりますが、資本収支が赤字になると日本は金持ちになる、と聞くとなぜ赤字なのに金持ちなのか意味不明です。しかしそれも、資本収支の意味を理解するとその理由が分かってきます。要するに、金融に関する言葉の定義と公式の理解が必要ということですが、例えば、国際収支では、経常収支を初め、資本収支、基礎収支、総合収支といろんな収支だらけでうんざりします。それでも、ファイナンスが資金調達を意味するということだけでも、かなり分かったような気になります。

本書の背景には、米国の膨らみ続ける経常赤字と日本の一向に減らない経常黒字に伴う日米経済摩擦や、その結果、米国自身の財政赤字の解消が本筋であるにも関わらず、日本の経済構造の閉鎖性に問題ありとして市場解放を要求してきた米国の態度の身勝手さを分析する意図もあるのでは、と思いましたが、その意味合いでも、なぜ日本の黒字は減らず、円高になっていくかという理由を理解する上でも、為替レートの決定メカニズムを知ることが重要になってきます。

その為替レート決定の基盤となる国際通貨制度が、金本位制からブレトンウッズ体制下の固定相場制、さらに変動相場制へと歴史的に変遷する過程から、国内均衡と国際均衡の狭間で世界の国々が何を求めて、どのような経緯で体制を形成していったのか、世界経済のダイナミズムが感じられる、なかなか興味深い内容となっています。

当然国際通貨制度は、各国の財政金融政策にも影響を及ぼすわけで、その一つの結論として、固定相場制下では財政政策は有効だが金融政策は制約され、変動相場制下では金融政策は有効性を増すが、財政政策は効果が薄くなる、というマンデル・フレミング・モデルというのは、なかなか参考になる考えのようです。

歴史的な紆余曲折の末に採択された変動相場制に対する著者の評価は、当初期待されたほどの効用はなかったものの、現在考えられる為替相場制度としては最高のもの、ということで、今後もこの方向で拡大していくことは間違いなさそうです。

金融のいまひとつ重要な要素として、為替リスクに対する回避手段としてのデリバティブ及び、それを使ったヘッジ・ファンドによる投機などの問題がありますが、それらの権化ともいえるジョージ・ソロスについて著者が、単なる投機ではなく経済の論理を熟知した合理的判断に基づく行動に過ぎない、と評価しているのは興味深いでした。

様々なところでしばしば取り上げられる、円高ドル安の問題については、円高ドル安が進むと日銀は公定歩合引き下げで対応する傾向があり、87年からの金融緩和がバブルを引き起こしたとする著者は、長期の金融緩和政策は有害であるため円高対策を行うよりも、円高は受け入れて別の対策を行うべきという考えのようです。

本書の書かれた95年当時は、円高がさらに進んだ時期でもあり、円高による国内の産業空洞化が懸念される中、著者は円高による輸入増大は新たな国際分業の始まりであり、より高度な産業へのシフトと介護福祉などサービス部門の拡大、さらに余暇関連産業へと産業構造の転換を提唱しています。実際その後どうなったのか、詳しいことは知りませんが、それから15年近く経った今でも、同様のことが言われているような気がします。昨今の円高についても、米国発の金融危機に基づくドル安に引きずられるように、どんどん円が高くなっている状況に対して、もはや公定歩合を引き下げるような政策も取れない現在、どのような対策が可能なのか、ここでも著者の主張するような円高受けれいれによる、新たな産業構造の転換という局面に差し掛かっているのかもしれません。

お金は日常当たり前に使うものなのに、お金の流れに制度や国、国際関係が絡むとかなり複雑で専門的な知識が必要になるのだということがよくわかり、益々自分からは遠い世界であるような感じがしてきます。本書でもかなり初歩的な解説に留めているようではありますが、私のように金融の知識のほとんどない人間には、入門としてはちょっときついと思われました。しかし、国際金融の初歩をしっかりと理解したいという人には良い入門書であると思われ、本書を基礎に、わからないところをさらに調べていくようにすれば、理解もずっと進むのではないかと思われます。

本書は、風が吹けば桶屋が儲かる的な金融の複雑さを、学術的な平易さで解説した、所謂、岩波的入門書といったところでしょうか。

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<一言>
この本最近新しくなっているようで、装丁だけなのか内容も多少手が入っているのか、どうなのでしょう?
いずれにしても私にとってハードルの高いものでした。
どうも経済とか金融とか昔から苦手です。
そのせいで、レビューの内容も単なる愚痴のようなものになってしまいました。
反省することしきりです。
本書も金融の理論の説明は難しく興味が湧きませんでしたが、歴史の部分はなかなか面白かったので、なんとか最後まで読めました。
興味の薄い本を読むのはやっぱり大変です。